症例case

【犬】副腎皮質機能亢進症(クッシング)と副腎皮質機能低下症(アジソン)

はじめに

副腎とはお腹の中にある臓器で、腎臓の隣に左右2つあり、数種類のホルモンを出しています。副腎の一部である副腎皮質は、副腎皮質ホルモンを出し、そのうちの一つがコルチゾールです。コルチゾールは、ACTHというホルモンの刺激を受けて分泌されます。このACTHは、下垂体という脳の一部から分泌されるホルモンです。

下垂体は、血液中のコルチゾールの濃度をチェックし、血液中のコルチゾールの濃度が高ければ、下垂体はACTHの分泌を少なくして、副腎皮質からのコルチゾール分泌を抑えます。血液中のコルチゾール濃度が低ければ、下垂体はACTHの分泌を多くして、副腎皮質からのコルチゾール分泌を促進します。このようにして、血液中のコルチゾール濃度は一定に保たれます。

※コルチゾールの働き

  • たんぱく質を分解し、グリコーゲンへ変える
  • インスリンの働きを阻害する
  • 炎症や免疫を抑える
  • 血圧の維持
  • 体内の水を保持するアルドステロン(ミネラルコルチコイド)の分泌や働きを抑える など

★血液中のコルチゾールが過剰になる→副腎皮質機能亢進症(クッシング)を発症

★副腎が萎縮して、副腎皮質ホルモンが出せなくなる→副腎皮質機能低下症(アジソン)を発症

副腎皮質機能亢進症(クッシング)とは

原因

血液中のコルチゾールが過剰になる原因には、大きく3つあります。

①下垂体腫瘍

脳にできた腫瘍によって、ACTHが過剰分泌になってコルチゾールも過剰分泌になってしまう。これが原因での発症が最も多く見られます。

②副腎腫瘍

下垂体の働きは正常でも副腎が腫瘍化する事で下垂体からの命令を無視してしてコルチゾールを過剰分泌してしまいます。

③医原性

ステロイド剤過剰投与によるもので医原性クッシングとよばれます。

症状

  • 水をよく飲む、尿を多量にする(多飲多尿)
  • お腹が膨れる
  • 脱毛
  • 筋肉が薄くなる
  • 皮膚が薄くなる
  • あえぎ呼吸(パンティング)することが多くなる
  • 皮膚などに石灰化が起こる など

また、合併症が問題になることも多い病気です。合併症としては、糖尿病、高血圧、膵炎、感染症(皮膚、膀胱など)、血栓症などがあります。

診断

  • 血液検査
  • 診断のための特殊血液検査(ACTH刺激試験 など)
  • 尿検査
  • 超音波検査
  • X線検査
  • CT検査/ MRI検査 など

疑わしい症状があれば、まず身体検査・血液検査・尿検査・超音波検査・X線検査などを行います。超音波検査では、特に副腎の大きさを測定、観察し片方または両方の副腎が大きくなっていないかなどの異常を調べます。症状と身体検査から副腎皮質機能亢進症の可能性が高ければ、副腎皮質機能亢進症を診断するための検査を行います。

副腎皮質機能亢進症を診断するための検査には、ACTH刺激試験があります。特殊な血液検査でも、副腎皮質機能亢進症を100%診断するものではないので、症状と検査結果を組み合わせて判断をします。

治療

内科治療では、副腎の働きを阻害し、コルチゾール分泌を抑える薬を投与します。完治はしませんが、症状を抑えることができます。薬が効き過ぎると、コルチゾールが少なくなる病気(副腎皮質機能低下症)を引き起こしてしまうため、定期的な検査が必要です。

腫瘍化した下垂体を切除する手術を行う場合もあります。完治できる可能性がありますが、リスクもあり困難です。副腎の手術は難しく、大学病院や副腎摘出症例数の多い専門病院などに紹介いたします。

その他の治療方法では放射線療法が行われる場合もあります。

予後

内科治療を行う場合、通常生涯の投薬が必要です。薬は効きすぎても効かなくてもいけないので、定期的に身体検査や血液検査でチェックして、薬の量を調節します。また、合併症で苦しむ子も多いので、合併症に注意しながら治療していきます。

副腎皮質機能低下症(アジソン)とは

別名をアジソン病と言って、副腎から出るホルモンが少なくなってしまう病気です。はじめのうちは特徴的な症状はなく、少し元気が無いとか、時々吐いたり、軽い下痢になるなど、重い症状は出しません。しかし、何かのストレスをきっかけに、急激に悪化し、危険な状態に陥ることがあります。若齢から中年齢の雌犬で発生することが多いです。

症状

  • 食欲不振
  • あまり動こうとしない
  • 下痢
  • 嘔吐
  • 体重減少
  • 虚弱
  • ふるえ など

アジソン病(副腎皮質機能低下症)では、ストレスに対処するホルモンの分泌が低下するため、ストレスで症状が悪化することが特徴的です。副腎皮質の機能がある程度まで低下すると、ストレスが加わるなどして、突発的にショック状態に陥り、緊急的な状態になることがあります。これをアジソンクリーゼと言い、アジソンクリーゼは早急に治療を行う必要があり、突然死につながる危険な状態です。

診断

  • 血液検査
  • 尿検査
  • X線検査
  • 超音波検査
  • ACTH刺激試験
  • 内因性ACTH濃度測定
  • CT検査/ MRI検査 など

特徴的な症状は無いので、一般的な血液検査で、電解質バランスが大きく崩れていて、初めて気づくことが多い病気です。アジソン病(副腎皮質機能低下症)の確定診断は、ACTH刺激試験で行います。

治療

副腎のホルモンが足りなくなる病気なので、副腎のホルモンを補充する内科治療を行います。必要なホルモンには、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドがあります。どちらも必要な量を内服薬で補充します。適切な治療をするために、定期的に、身体検査や血液検査を行って、薬の量を調節します。

予後

完治する病気ではないため、治療は生涯にわたります。うまく維持できれば、健康な子と同様の生活ができます。