症例case

【猫】甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症とは

甲状腺機能亢進症とは、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモン量が過剰になることによって起きる病気です。特に8歳位から発生率が上昇し始め、品種や性別に関係ありません。

甲状腺は喉のあたりにある小さな臓器で、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは全身に作用します。全身の細胞に作用し、代謝を活性化させる役割があります。甲状腺機能亢進症になると、甲状腺ホルモンが異常に多く分泌され、代謝が上がりすぎてしまうため体のさまざまな臓器に負担をかけることになります。

原因には、甲状腺の過形成、甲状腺腫瘍などがあります。

症状

  • 体重減少
  • 食欲が通常より増す
  • 飲水量が増え、尿量も増える
  • 嘔吐・下痢
  • 攻撃性が増す
  • 落ち着きがなくなる
  • 目がぎらつく
  • 毛づやが悪くなる など

細胞の代謝活性全般が活発になりすぎることで、「高齢の割に食欲もあり元気」という印象を持ってしまうこともあります。症状が進行すると、最終的には食べる元気もなくなり、食欲も低下していきます。また、心筋肥大や呼吸困難がみられることもあります。

診断

甲状腺機能亢進症は、主に血液検査、触診、超音波検査によって診断します。

・血液検査

甲状腺ホルモン(T4)を測定します。数値が高ければ甲状腺機能亢進症と確定できます。また一般の血液検査ではALPやALTといった肝酵素の上昇がみられることがあります。

・触診、超音波検査

のど(気管の両脇)にある甲状腺が腫大していないかどうかを触診や超音波検査で確認します。

・その他の検査

他の病気がないかどうか、また、甲状腺機能亢進症によって引き起こされる「高血圧」「心筋肥大」「腎機能障害」「眼の異常(眼底出血、網膜剥離)」などがないかどうかを確認するために、血圧測定、超音波検査、X線検査、尿検査、眼科検査などを行うことがあります。

治療

投薬

一番多く選択されている治療法です。内科療法として、甲状腺ホルモンを過剰に作らせないようにするお薬を使います。副作用が出ないことを確認しながら少しずつ薬の量を増やしていき、甲状腺ホルモン値を測定して薬の適切な量を決めていきます。投薬を中止すると再び甲状腺ホルモンは増えます。また、甲状腺機能亢進症は薬を飲んでいても徐々に進行していくことがあります。そのため生涯の投薬と定期的な検査が必要です。

甲状腺の切除

腫大した甲状腺(片側または両側)の外科的切除を行います。手術が成功すれば、その後の治療は必要なくなります。しかし、甲状腺を切除することで甲状腺ホルモンが足りなくなるため、甲状腺ホルモンの内服が必要になることがあります。

※甲状腺の切除は大学病院や多くの手術経験のある病院に限られます

療法食

甲状腺機能亢進症の猫ちゃんのための療法食もあり、反応がよければ内服薬が必要なくなることもあります。しかし、療法食以外の食べ物はおやつを含め、水以外一切口にできなくなります。

併発疾患の治療

腎臓病、高血圧、心臓病などを併発している場合は、それらに対する治療(内服薬など)も並行して行います。

実際の症例

雑種12歳の猫ちゃん。

半年に1回の定期検査にて甲状腺ホルモンが高値となっていました。同時にALTとALPの上昇もあり。

内服薬1.25mg、1日1回の投与で投薬スタート。1か月後に甲状腺ホルモンを再検査。効果が少なかったため内服薬2.5mgに増量。

最新の検査値ではホルモン濃度、ALT、ALPも正常もしくは正常に近くなっており、これらの異常値も甲状腺機能亢進症が関連していた可能性が高いと考えています。

まとめ

猫ちゃんの甲状腺機能亢進症は症状だけでは気づきにくいことも多く、治療を行わなければ寿命を短くしてしまう病気です。

治療を行えば良い状態を保つことが出来ます。

定期検査を行うことで早期発見・早期治療につなげてあげましょう。特に7歳を超えるシニア期には1年に1~2回の血液検査をお勧めしています。