子宮蓄膿症とは?
「子宮蓄膿症」とは子宮内膜が腫れ、細菌感染を起こし、子宮内に膿が溜まる病気です。命に関わる緊急的な病気です。
避妊手術を受けていなくて、出産経験もない、または出産経験の少ない女の子のワンちゃんは、中高齢になると子宮蓄膿症を起こすことがあります。
子宮蓄膿症には「開放性」と「閉鎖性」の2通りあります。陰部から膿が出てくるか、子宮内に留まるかの違いになります。膿が出ない方(閉鎖性)が重症なことが多く、すでに重篤な合併症を起こしていることも多いです。
子宮蓄膿症の症状
- 外陰部から膿が出ている
- 外陰部を気にして舐める
- 水をよく飲み、おしっこの量が多い
- 発情出血が長期間続いている
- 腹部を触ると痛がる
- 発熱、頻脈
- 元気がない
- 食欲不振
- 嘔吐 など
このような症状がある場合は、出来るだけ早く動物病院へ受診してください。
治療が遅れてしまうと、細菌の影響でショック症状を起こしたり、大量に溜まった膿で子宮破裂を起こしたりすることがあります。子宮破裂によって腹腔内に汚染が広がると、最悪の場合には命を落とすこともあります。
子宮蓄膿症の原因
子宮蓄膿症に大きく関わっているホルモンのひとつとしてプロゲステロンが挙げられます。
避妊手術をせず、妊娠していない犬は1年に1~2回発情周期を繰り返します。発情期が終わると、約2ヶ月間、発情休止期に移行します。
発情休止期はプロゲテロンという黄体ホルモンの分泌量が増加します。この黄体ホルモンは受精卵を着床させやすくする作用を持ち、妊娠の持続に働きますが、一方免疫力を低下させてしまう作用もあります。
このプロゲステロンが優位になる時期(黄体期)に子宮が細菌感染を起こし、子宮蓄膿症になりやすくなります。
発症しやすい犬の特徴は、避妊手術を受けていない6歳以上(繁殖適齢期以降)の雌犬です。特に、出産を経験していない犬や、最後の出産から年数が経っている場合に発症しやすい傾向があります。
子宮蓄膿症にかかりやすい犬種はなく、すべての犬種でかかる可能性があります。
子宮蓄膿症の検査/診断
主に以下の検査を行います。
①外陰部の視診
陰部からの分泌物の量や性状、においを確認します。
②超音波検査
子宮内が液状物で拡張しているか確認します。
③血液検査
炎症細胞である白血球数の増加や、炎症マーカーのCRPの上昇などを伴うことがあります。軽度の貧血など、さまざまな全身症状を伴うこともあります。
子宮蓄膿症の治療法
①外科手術
全身麻酔に耐えうる状態であれば第一選択として子宮卵巣摘出術が行われます。子宮摘出と同時に卵巣も摘出し、卵巣疾患の予防をかねます。子宮卵巣摘出という処置自体は避妊手術と同様なのですが、健康なときに行う避妊手術と比べると、身体へ負担がかかります。
犬の状態の悪さや子宮や血管がもろくなっていること、膿で子宮が張っている場合は穴が開いたり破裂する可能性があること、迅速さが求められることなどから避妊手術に比べると様々な危険性があります。
また、入院日数は避妊手術より長くなり、必要な投薬や処置も増えます。健康な子に予防的に行う避妊手術と比較すると、手術費、入院費は数倍以上と高額になります。
②内科治療
「開放性」子宮蓄膿症の場合、子宮内の膿がほとんど排泄されていて貯留がごくわずかで、なおかつ全身状態が良好といった限定的なケースで内科治療を行うこともあります。抗生物質および子宮内膜の炎症を抑える薬を使用しますが、内科療法では治らないこともあること、治っても再発する可能性が高いなどのデメリットがあります。外科手術と比べ費用がかからないこと、手術による痛みがないメリットもありますが、当院では可能であれば外科療法をお勧めしています。
ここからは実際の手術写真があるため、ご了承いただける方のみお進みください
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子宮蓄膿症の症例
症例① 左側卵巣腫瘍&子宮蓄膿症
11歳のヨークシャーテリアのワンちゃん。3日前より元気食欲廃絶、39.7度の発熱、陰部よりクリーム状のおりものが出るという主訴で来院されました。
卵巣と子宮の全摘出手術を行いました。卵巣の腫瘍は病理検査に出しておらず診断はついていませんが、子宮蓄膿症との関連性は疑われます。
避妊手術をしていないと、中齢期以降は卵巣の腫瘍もまれに認められるためご注意ください。
症例② 子宮蓄膿症
5歳のチワワのワンちゃん。1週間前から尿が臭く、おりものが増えたという主訴で来院されました。閉鎖性でしたが、
手術時麻酔をかけた時に筋肉が弛緩し、膿様のおりもの排出が認められました。予定通り卵巣と子宮を全摘出しました。
まとめ
健康なうちに避妊手術を受け、子宮と卵巣を摘出することで予防ができます。また、初回発情前の避妊手術は乳腺腫瘍の発生率を大幅に下げるという報告もあります。繁殖を希望しない場合は、避妊手術を積極的に検討してあげて下さい。