症例case

【猫】けんか・交通事故…愛猫を守るために知っておきたい「外の危険」

はじめに

過去、外飼いをしている猫ちゃんが犬とけんかをしてしまい、大怪我を負って来院された例がありました。幸いにも適切な処置で回復に向かいました。しかし、もし発見が遅れていたら、命に関わる事態になっていたかもしれません。

「うちの子は外が大好きだから」「自由にさせてあげたい」というお気持ちもよくわかります。しかし、外の世界は私たち人間が考える以上に、猫ちゃんにとっては危険に満ちています。今回は、外飼い猫ちゃんが遭遇するリスク、特に他の動物とのけんかのリスクに焦点を当ててお伝えします。

「犬とのけんか」は想像以上に危険!

今回の猫ちゃんのように、猫が犬とけんかをしてしまうケースは珍しくありません。特に、リードを外して散歩している犬や、放し飼いの犬、地域によっては野良犬と遭遇した場合、猫は身を守るために必死に応戦することがあります。

犬と猫では体の大きさが大きく異なることが多いです。犬の方がはるかに力が強いため、猫が受けるダメージは非常に大きくなりがちです。

考えられる怪我の例

  • 重度の咬傷(こうしょう): 犬の牙は深く、皮膚だけでなく筋肉や骨、内臓にまで達する深い傷を負うことがあります。傷口が小さくても、深部で組織が損傷していることも多く、感染のリスクも高いです。
  • 骨折: 四肢や肋骨、顎などの骨折も珍しくありません。特に交通事故と見間違えるほどの重傷を負うこともあります。
  • 内臓損傷: 腹部や胸部を噛まれた場合、脾臓破裂、肝臓損傷、肺の損傷などの深刻な内臓損傷が起き、緊急手術が必要になることもあります。
  • 脱臼: 股関節や肩関節の脱臼も起こり得ます。
  • 感染症: 犬の口の中には多くの細菌がいるため、咬傷は高確率で感染を引き起こします。膿瘍(ウミの袋)を形成し、発熱や食欲不振につながることがあります。

外飼いの猫は、一度外に出てしまうと飼い主さんがその行動を完全に把握することはできません。いつ、どこで、どんな動物と遭遇し、どんな怪我を負うかわからないという大きなリスクを常に抱えています。

他の動物とのけんかも注意!

犬とのけんか以外にも、外飼い猫は様々な動物とのトラブルに巻き込まれる可能性があります。

他の猫とのけんか

最も頻繁に起こるのがけんかです。縄張り争いや、発情期の異性を巡る争いなど、猫同士のけんかは日常茶飯事です。

  • 怪我の例: 咬傷(特に顔や手足、しっぽの付け根)、引っ掻き傷、膿瘍形成。猫の牙は細く鋭いため、小さな傷口でも内部で感染を起こし、数日後に大きな膿瘍となることが非常に多いです。
  • 感染症のリスク: 猫同士のけんかは、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)などの恐ろしいウイルス感染症を媒介する主な経路となります。これらのウイルスは一度感染すると完治が難しく、命に関わる病気です。

野生動物との遭遇

タヌキ、イタチ、アライグマ、キツネ、ヘビ、鳥、蜂など。地域によって様々な野生動物と遭遇する可能性があります。

  • 怪我の例: 咬傷、引っ掻き傷、ヘビに噛まれることによる中毒など。野生動物は猫よりも大きく、病原体を保有していることもあります。
  • 感染症のリスク: 狂犬病(日本は清浄国ですが、ゼロではありません)、レプトスピラ症など、人にも感染する可能性のある病原体を媒介される危険性があります。

他動物とのけんか以外の「外の危険」

けんか以外にも、外飼い猫には多くの危険が潜んでいます。

  • 交通事故: 最も多い死亡原因の一つです。車やバイクに轢かれる事故は、外に出る猫にとって常に隣り合わせのリスクです。
  • 中毒: 農薬、殺虫剤、毒性のある植物などを誤って口にしてしまう危険性があります。
  • 寄生虫感染: ノミ、マダニ、回虫、条虫などの外部・内部寄生虫に感染するリスクが格段に上がります。マダニは重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などの人獣共通感染症を媒介することもあります。
  • 感染症: 上記のFIV、FeLV以外にも、猫汎白血球減少症、猫風邪(ヘルペスウイルス、カリシウイルス)など、他の猫との接触や環境から様々な感染症にかかるリスクがあります。
  • 迷子・行方不明: 一度外に出てしまうと、迷子になったり、そのまま帰ってこなくなったりする可能性も高まります。
  • 虐待・イタズラ: 残念ながら、心ない人間による虐待やイタズラの対象となってしまう危険性もゼロではありません。

ケンカで怪我した症例

2歳の猫

夜間に犬に襲われたとのことで、体が起こせないほどぐったりとした状態で来院されました。複数個所の皮膚の裂傷、上顎犬歯の破折、下顎結合の断裂、口腔粘膜、結膜の出血がありました。普通のケンカでは牙が折れたり顎が割れたりまではしない気もするため、もしかしたら逃げる時に高所から落下した、または交通事故にあった可能性もあります。

上顎犬歯は経過観察となりましたが、外傷性ショックに対しての緊急対応及びその後の手術により元気に回復しました。

愛猫の安全のために

猫ちゃんを愛するがゆえに、自由にさせてあげたいというお気持ちはよく理解できます。しかし、外の世界には想像以上に多くの危険が潜んでいます。猫ちゃんに辛い思いをさせる可能性があることを知っていただきたいと思います。

大切な愛猫の命と健康、そして心の安全を守るために、完全室内飼育をご検討いただければ幸いです。猫は縄張りを持って生きる動物です。おうちの中が縄張りとなってしまえば、その猫にとっては十分安心できる場所なのです。窓の外を眺めることもあるでしょう。けどそれは外へのあこがれよりも、安心した場所から下界を眺めているだけのことがほとんどでしょう。

すでに外飼いをされている場合は、ノミ・マダニ・フィラリアの予防、混合ワクチン接種、おなかの虫下し、FIV/FeLV検査など、定期的な健康管理を徹底しましょう。そして、少しでも異変を感じたらすぐに動物病院を受診してください。

当院では、愛猫を室内で快適に過ごさせるためのアドバイスや、もしもの時のための治療体制を整えています。ご心配なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。