症例case

【猫】口が閉じない老猫の「歯周病」サイン

「うちの子、もうおじいちゃん/おばあちゃんだから、食が細くなったのかな…」

「よだれが増えたけど、歳だから仕方ないよね?」

そんな風に、愛猫の些細な変化を年齢のせいだと考えていませんか? 実は、猫が必死に隠している「痛み」が潜んでいるかもしれません。特に、口がうまく閉じられないという症状は、老齢猫に多い「歯周炎」が原因である可能性があります。

今回は、口が閉じないという症状で来院し、犬歯の抜歯によって劇的に改善した老齢猫の症例をもとに、猫の歯周炎について、猫の習性と絡めて深く掘り下げていきます。愛猫の小さな変化に気づき、痛みのない毎日をプレゼントしてあげましょう。


隠された病気:猫の歯周病と「歯周炎」

猫は、体調が悪いことや痛みがあることを隠すのがとても上手です。これは、野生時代に弱みを見せると捕食者や敵に狙われるリスクがあった名残だと言われています。そのため、飼い主さんが気づく頃には、病気がかなり進行していることが多いです。

「歯周病」は、歯と歯茎の間に細菌が入り込み、炎症を起こす病気です。この病気には、歯茎だけの炎症である「歯肉炎」。そして、歯を支える周りの組織にまで炎症が及んだ「歯周炎」の2つの段階があります。

今回の症例の猫のように、口が閉じられなくなるほどの痛みは、重度の歯周炎が起きている可能性が高いです。重度の歯周炎(歯周病)になると、抜歯するケースも少なくありません。

猫の歯周炎/抜歯

もしかして?愛猫からのSOSサイン

猫は痛みがあるからといって、犬のように「キャンキャン」と鳴いたり、わかりやすく顔を触らせなかったりしません。飼い主さんが見落としがちな、猫ならではのSOSサインに注目しましょう。

  • よだれが増えた、口周りが濡れている
  • 口臭がきつくなった
  • ご飯を食べるのが遅い、丸呑みする、フードを口からこぼす
  • 体重が減った
  • 毛づくろいをしなくなった、もしくは特定の場所ばかり舐めている
  • 口元を気にしたり、前足で顔をこすったりする
  • 口がうまく閉じない、半開きになっている

特に、口が閉じない症状は、歯周炎によって歯が斜めになり、正常な噛み合わせができなくなっていることが考えられます。これは、猫にとって大きなストレスと痛みになります。


なぜ猫は歯周炎になりやすい?

猫の歯周病の最大の原因は、歯垢(プラーク)と歯石の蓄積です。歯周炎にまで進行してしまう背景には、いくつかの要因が絡み合っています。

  • デンタルケアの難しさ: 猫は口を触られるのを嫌がる子が多く、歯磨きを習慣化するのが難しいです。
  • 猫特有の吸収病巣: 歯の根元から溶けてしまう病気です。痛みを伴い、歯周病と同時に発症することも多いです。

治療:痛みの原因を取り除く

猫の歯周炎の治療は、痛みの原因を根本から取り除くことが重要です。

  • 抜歯: 痛みの原因となっている歯や、ぐらぐらになった歯を抜歯します。今回の症例の猫ちゃんも、斜めになってかみ合わせを悪くしていた犬歯を抜歯することで、口の違和感や痛みが改善しました。
  • 歯石除去(スケーリング): 超音波スケーラーで歯石を除去し、歯垢がつきにくい状態に磨き上げます。
  • 抗生物質・鎮痛剤: 炎症を抑えたり、痛みを和らげたりするために使用します。

予防:老猫こそ日々のケアが大切

一度進行した歯周炎は完治が難しいです。が、日々のケアで新たな進行を防ぐことは可能です。

  • 毎日の歯磨き: 猫用の歯ブラシと歯磨きペーストを使って、少しずつ歯磨きに慣れさせましょう。難しければ、指にガーゼを巻いて優しく拭いてあげるだけでも効果があります。
  • デンタルケアグッズの活用: 歯磨きが難しい場合は、歯磨き効果のあるおやつや、口腔ケア用の液体などを試してみるのも良いでしょう。
  • 定期的な獣医師でのチェック: 特に7歳以上の老齢猫は、半年に一度は獣医師に口の中を診てもらうことをお勧めします。

まとめ:小さな変化が愛猫の健康を守る

口が閉じない、よだれが増えたといった症状は、老齢猫によく見られる歯周病のサインです。猫が痛みを隠す天才だということを忘れず、日々の小さな変化を見逃さないでください。

今回の症例の猫は、飼い主さんが口の異変に気づいてくれたおかげで、痛みの原因を取り除くことができました。

もし、あなたの愛猫に少しでも気になる症状があれば、「年だから…」と片付けずに、まずは獣医師に相談してみましょう。その一歩が、愛猫の痛みのない穏やかな毎日を守る大きな力となります。