愛犬の皮膚に、赤くてジュクジュクした湿疹を見つけたことはありませんか? つい数時間前まで何もなかったのに、あっという間に広がって、毛が抜け落ちている…。もし、そんな症状を見つけたら、それは「外傷性湿疹」、一般的には「ホットスポット」と呼ばれる皮膚病かもしれません。
今回は、この急性の皮膚トラブルについて、詳しく解説します。ホットスポットがなぜ起こるのか、どんな症状が見られるのか。そして適切な治療法やご自宅でできる予防策まで。大切な愛犬を守るためのヒントをまとめました。愛犬の皮膚の異変に気づいたときに、冷静に対処できるよう準備しておきましょう。
犬のホットスポットの概要:急に現れるジュクジュクした湿疹
ホットスポット(正式名称:急性湿潤性皮膚炎)は、皮膚の表面に急激に現れる湿った、赤く炎症した病変です。その名の通り「熱い場所」を意味しています。触ると熱を持っていることが多く、激しいかゆみと痛みを伴います。
この病気は、特に高温多湿な時期に発症しやすいのが特徴です。梅雨の時期や、夏のシャンプー後、雨の日の散歩後など。皮膚が濡れてジメジメした状態が続くと、ホットスポットのリスクが高まります。しかし、季節を問わず発症する可能性があります。飼い主さんが気づいた時には、すでに広範囲にわたっていることも珍しくありません。

犬のホットスポットの症状:赤み、湿潤、脱毛、そして激しいかゆみ
ホットスポットの最も典型的な症状は、以下の通りです。
- 強い赤みと熱感:病変部が赤く腫れ上がり、触ると熱を持っている。
- 湿潤(ジクジクした状態):滲出液(しんしゅつえき)と呼ばれる液体が出て、ベタベタと湿っている。
- 脱毛:強いかゆみから、犬がその部分を舐めたり、噛んだり、掻いたりすることで、毛が抜け落ちてしまう。
- 激しいかゆみ:あまりの不快感に、犬は患部を執拗に舐めたり噛んだりし続け、さらに症状を悪化させる。
ホットスポットは、首、顔、お尻、太もも、背中など、犬が舐めたり噛んだりしやすい場所にできやすいです。毛が長い犬種では、毛に隠れて発見が遅れることもあります。今回の症例のように、シャンプー後や雨で皮膚が濡れたままの状態が続き、違和感を覚えた犬がその部分を気にしすぎて発症することが非常に多いです。
犬のホットスポットの原因:複数の要因が絡み合う悪循環
ホットスポットは、一つの原因で起こるのではありません。複数の要因が絡み合った結果として発症します。
1. 皮膚の異常と細菌の繁殖
皮膚の表面は、通常、バリア機能によって守られています。しかし、シャンプー後の濡れた状態や、湿度の高い環境では、バリア機能が低下します。その結果、ブドウ球菌などの常在菌が異常に繁殖しやすくなります。この細菌の繁殖が、炎症を引き起こす最初の引き金となります。
2. アレルギーや寄生虫
ノミ、ダニ、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎など。元々、犬が持っているアレルギーや皮膚の寄生虫によって、かゆみが引き起こされることがあります。このかゆみが不快で、犬が体を掻いたり舐めたりすることで、皮膚のバリア機能がさらに破壊され、ホットスポットへと発展します。
3. 外傷や皮膚の違和感
蚊に刺された、小さな擦り傷がある、毛玉ができている、湿気で皮膚がベタつくなど。犬がその部分を気にするきっかけは様々です。これらが原因で、犬が患部を舐めたり噛んだりすることで、皮膚が傷つき、細菌が侵入しやすくなり、炎症が急速に広がります。
つまり、ホットスポットは、「皮膚の不快感」→「舐める・噛む・掻く」→「皮膚の損傷」→「細菌の繁殖」→「炎症の悪化と強いかゆみ」という悪循環によって引き起こされるのです。
犬のホットスポットの検査・診断:視診と簡単な検査で診断可能
ホットスポットは、獣医師が視診するだけで診断できることが多いです。しかし、根本的な原因を探るために、以下の検査が行われることもあります。
- 皮膚表面の検査:病変部の表面を拭き取って顕微鏡で観察し、細菌や酵母菌が異常に増えていないかを確認します。
- ノミの検査:ノミの糞(黒い粒)がないか、被毛を細かくチェックします。
- アレルギー検査:アレルギーが疑われる場合、血液検査や皮膚スクラッチテストが行われることもあります。
多くのホットスポットは、犬が舐めたり噛んだりしたことによる二次的な症状です。そのため、その根本にある「なぜ気になったのか」という原因を特定することが、再発を防ぐために非常に重要となります。
犬のホットスポットの治療:まず「舐めさせない」ことが最重要
ホットスポットの治療は、まず悪循環を断ち切ることから始まります。
1. 患部の処置
- 被毛の刈り込み:病変部とその周囲の毛を広範囲に刈り取ります。これにより、患部を乾燥させ、薬を塗りやすくします。さらに炎症の広がりを防ぐために非常に重要です。毛が長いと、病変部が隠れて見えにくくなり、治癒も遅くなります。
- 洗浄と消毒:洗浄液や消毒薬で患部をきれいにし、細菌を減らします。
2. 投薬治療
- 抗生物質:細菌感染を抑えるために、飲み薬の抗生物質や、軟膏を塗布します。
- ステロイド剤:炎症と強いかゆみを抑えるために、飲み薬のステロイド剤や、外用薬(軟膏など)を使用します。
3. 舐めさせない工夫
これが最も重要なステップです。
- エリザベスカラーの装着:犬が患部を舐めたり噛んだりしないように、エリザベスカラーをつけます。一時的にかわいそうに感じるかもしれません。しかし、これを怠ると治療が台無しになり、症状がさらに悪化してしまいます。
- 包帯:犬が外せないように、適切な包帯を巻くこともあります。
ホットスポットは非常に進行が速いため、早期発見・早期治療が何よりも大切です。少しでもおかしいと感じたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
犬のホットスポットの予防:日々のケアでリスクを減らす
日々の生活の中で少しの工夫をするだけで、発症リスクを大幅に減らすことができます。
- 皮膚を清潔で乾燥した状態に保つ:シャンプー後や雨の日の散歩後は、特に被毛の内側までしっかりと乾かしてあげましょう。ドライヤーで完全に乾燥させるだけでなく、風通しの良い場所で過ごさせることも有効です。
- 定期的なブラッシング:ブラッシングで毛玉を取り除き、皮膚の通気性を良くします。毛玉は湿気を閉じ込め、皮膚のトラブルの原因になります。
- ノミ・ダニ予防:ノミやダニが原因となるかゆみを防ぐために、年間を通して定期的な予防薬の投与を忘れずに行いましょう。
- アレルギー対策:もしアレルギーが疑われる場合は、獣医師と相談しながら、適切な食事管理や環境改善を行いましょう。
- 日々の観察:愛犬の体を撫でるついでに、皮膚の赤みや異常がないかチェックする習慣をつけましょう。早期に発見すれば、軽い治療で済みます。
まとめ:早期発見・早期治療、そして日々のケアが大切
ホットスポットはわずかな時間で広がり、愛犬に激しいかゆみと痛みを与える、とても厄介な皮膚病です。しかし、その多くは、皮膚のジメジメや、小さな外傷といった些細なことがきっかけで始まります。
もし、愛犬の皮膚に赤くてジュクジュクした部分を見つけたら、「とりあえず様子見」はせずに、すぐに動物病院を受診してください。適切な処置と、患部を舐めさせない工夫で、ホットスポットは比較的早く治癒します。そして、日頃から愛犬の皮膚を清潔で乾燥した状態に保ってあげましょう。小さな変化に気づいてあげることで、この辛い病気を予防することができます。
愛犬の健康な皮膚は、飼い主さんの日々の愛情深いケアから生まれます。シャンプー後のドライヤーや、雨の日のタオルドライなど。ちょっとした手間を惜しまず、愛犬の皮膚を守ってあげましょう。