症例case

【犬猫】口が痛そう、よだれが臭い…、「口腔内腫瘍」かも?

愛犬や愛猫が、口を気にしたり、よだれが増えたり、ご飯を食べにくそうにしていたら、どうしますか? 多くの飼い主さんは、口内炎や歯周病を思い浮かべるかもしれません。確かに多くの場合はそうです。しかし、その裏にもっと怖い病気「口腔内腫瘍」が隠れていることがあります。

今回は、犬と猫の口腔内腫瘍について、その概要から見過ごされがちな初期症状、原因、そして具体的な治療法や予防法まで解説します。口の異変に気づいたとき、慌てず冷静に対処できるようしましょう。


口腔内腫瘍の概要:口の中にできる悪性腫瘍とは?

腫瘍には良性と悪性があります。犬や猫の場合、悪性腫瘍(がん)であるケースが多いです。犬ではメラノーマ、扁平上皮癌、線維肉腫などが多く、猫では扁平上皮癌や繊維肉腫が多いと言われています。

悪性腫瘍は、周囲の組織を破壊しながら広がり、他の臓器に転移する可能性があります。進行が速いものもあり、早期発見と早期治療が非常に重要です。

犬の口腔内腫瘍
猫の口腔内腫瘍

口腔内腫瘍の症状:見過ごされがちな「口の違和感」

口腔内腫瘍の初期症状は、非常に見過ごされがちです。犬や猫は痛みを我慢する動物です。そのため、飼い主さんが気づいたには、かなり進行していることも珍しくありません。

以下のような症状に気づいたら、注意が必要です。

  • よだれが増えた、よだれが臭い:腫瘍からの出血や壊死した組織が原因で、よだれに血が混じったり、腐ったような臭いがしたりすることがあります。
  • ご飯を食べにくそうにする、食欲が落ちた:口の中の痛みや違和感から、食べ物を噛むのを嫌がったり、硬いものを避けるようになったりします。
  • 口を気にする、顔をこする:口の中に違和感があるため、前足で口元を触ったり、家具などに顔をこすりつけたりします。
  • 口が開けにくい、口が閉じない:腫瘍が大きくなると、顎の動きを妨げ、口が完全に閉じなくなったり、開けにくくなったりします。
  • 出血:腫瘍がもろく、出血しやすい場合があります。歯磨き中に歯ブラシに血がついたり、おもちゃに血がついたりすることがあります。
  • 顔の変形や腫れ:腫瘍が大きくなると、顔の外側から見ても腫れているのがわかるようになります。

これらの症状は、歯周病や口内炎といった他の病気でも見られます。が、「まさか」と油断せずに、獣医師に相談することが大切です。


口腔内腫瘍の原因:複数の要因が考えられる

人間のがんと同様に、まだ完全に解明されているわけではありません。しかし、いくつかの要因が関連していると考えられています。

  • 慢性的な炎症:歯周病などの慢性的な炎症が、細胞の異常な増殖を促し、腫瘍のリスクを高める可能性があります。
  • ウイルス感染:猫の場合、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染していると、リンパ腫などの口腔内腫瘍を発症するリスクが高まると言われています。
  • 遺伝的要因:特定の犬種や猫種で発症しやすい傾向があります。例えば、犬ではゴールデン・レトリーバーやボクサー。猫ではシャム猫などが挙げられます。

口腔内腫瘍の検査・診断:早期発見が命を救う

口腔内腫瘍の診断は、初期症状に気づくことから始まります。

  • 触診と視診:獣医師が口の中を詳しく観察し、腫瘍の有無、大きさ、場所、性状(硬さ、色など)を確認します。必要に応じて鎮静をかけることもあります。
  • 細胞診・組織生検:腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で細胞や組織を詳しく調べることで、良性か悪性か、また腫瘍の種類を特定します。これは最も確実な診断方法です。
  • 画像診断:レントゲン、CTなどを用いて、腫瘍の骨への浸潤の有無や、リンパ節、肺などへの転移がないかを調べます。

これらの検査を通じて、腫瘍の種類と進行度を正確に把握することできます。その後の治療方針を決定する上で非常に重要となります。


口腔内腫瘍の治療:種類と進行度に合わせて選択

腫瘍の種類や進行度によって、複数の選択肢から最も適した治療を選びます。

  • 外科手術:腫瘍を完全に切除することが、根治を目指す上で最も有効な治療法です。特に良性腫瘍であれば、手術だけで完治が期待できます。悪性腫瘍の場合、腫瘍の大きさや場所によっては、顎の骨の一部を切除する必要があることもあります。
  • 放射線治療:手術が難しい場所にある腫瘍や、手術で取りきれなかった腫瘍に対して行われます。放射線を患部に当てることで、がん細胞を死滅させます。
  • 化学療法(抗がん剤治療):リンパ節や他の臓器に転移している場合や、放射線治療と併用して行われることがあります。
  • 緩和ケア:腫瘍が進行し、根治が難しい場合でも、痛みや不快感を和らげ、犬や猫の生活の質(QOL)を保つための治療が行われます。

獣医師と十分に話し合い、愛犬・愛猫にとって最善の治療法を選択することが大切です。


口腔内腫瘍の予防:日々のデンタルケアと定期的な健康チェック

口腔内腫瘍を完全に予防することは難しいです。しかし、リスクを減らすためにできることがあります。

  • 毎日のデンタルケア:歯磨きやデンタルガムなどで、口腔内を清潔に保ちましょう。これが、歯周病などの慢性炎症を防ぎ、結果として腫瘍のリスクを減らすことにつながります。
  • 定期的な口腔内チェック:毎日、愛犬・愛猫の口の中をチェックする習慣をつけましょう。歯茎の色、腫れ、出血、口臭などに異常がないか確認します。
  • 定期的な健康診断:特に高齢の犬や猫は、定期的な健康診断で口の中を獣医師に診てもらうことが重要です。早期発見につながります。

まとめ:小さな変化に気づくことが、命を守る第一歩

犬や猫の口腔内腫瘍は、発見が遅れがちで、進行が早いことも多い怖い病気です。よだれの増加や口の臭いといった、些細な変化を見逃さないようにしましょう。「おかしいな」と感じたときに、すぐに獣医師に相談することが何よりも大切です。

口の痛みやよだれの増加、食欲不振といった症状。これが実は、口腔内腫瘍のサインかもしれません。

日々のデンタルケアを通じて、愛犬・愛猫の口の中をよく観察する習慣をつけましょう。そして、少しでも気になることがあれば、迷わず動物病院を受診してください。早期発見が、愛犬・愛猫の未来を大きく左右します。